天使と悪魔のささやき

それは東京に向かう前の千歳空港だった
とりあえずうんこでもしようとトイレに入った
便座に座ってふと見るとなんとトイレットペーパーの上に財布が置いてあった
どうみても忘れ物だ
おそるおそる手に取る
前に遠征した先のカプセルホテルのトイレに財布を落として
中の7万円を全部盗まれて途方にくれたことを思い出した
落とすこともあれば拾うこともあるのだ
とりあえず中を見てみる
千円札が10枚程度入っていた
1万円くらいかぁ・・・
後はカードがごっそり入っていた
ふと俺の耳に悪魔がささやいた
「これで交通費が浮くな・・・」
金のない俺にとってはこんなに助かることはない
だけどすぐに天使がこう言った
「おまえはこれからどこに何をしにいくんだ?」
すぐに我に返った
これから愛するみやびちゃんに会いに行くんだ
その交通費に拾った金で行ってどうするんだ
そんな手でみやびちゃんと握手できるのか?
それ以上悪魔のささやきはもう聞こえなかった
自分は以前財布を落として中身を抜かれて本当に辛かった
逆に立場になったときに本当の人間が試される気がした
みやびちゃんが俺を試しているのだ
トイレから出るとすぐ近くの案内カウンターに財布を届けた
何か住所氏名電話番号とか書かされてさすがに空港なので厳重だった
もし落とし主がでなかった場合どうするかみたいなのを書く欄があり
一応もらうことにしようかと思ったら、その場合は中身の金額とか
もっと偉い人に確認してもらってから云々とかでめんどくさかったのでいらないことにした
届けた後なんかちょっといいことをした気がした
当たり前のことと言えばそれまでなんだけど
きっとこの試練を与えた神様は見ていたはずだ
この男ならみやびちゃんを任せてもいいだろうと思ったはずだ
そんな良いことをしたはずの俺なのだが
その日のイベの席の抽選は糞席中の糞席
神様なんて本当にいるんだろうか?
トイレで財布拾ったのに運なんて少しもありゃしない
そんな1日が終わりふと携帯を見ると留守録が入っていた
財布を落とした人からのお礼の電話だった
なんかすごいうれしい気分になった
きっとこの落とし主がみやびちゃんの親戚なのだ
そして、こんな良い人なら親戚に夏焼雅っていうかわいい子がいるんで紹介しましょうか?
そんな展開が俺を待っているのだ