浪人

受験期間ということで俺の話を少しする
俺は1浪している
現役のときのセンターは607点だった
その1ヶ月前のセンタープレテストでは430点くらいだった
俺は最初から1浪するつもりだったので受験勉強はほとんどしてなかった
しかし、あまりにひどい点数だったので1ヶ月だけ本気で勉強して170点以上あげた
難易度も違うので一概に比べることはできないがこれは驚異的だと思ってる
予想外に高い点数を取れたので北海道で2番目に評価の高い大学を受けることができた
北海道に住んでいると東大だ早稲田だと言われることはまずない
頂点は北大であり、小樽商大が2番目になる
極端に言えば東大よりも北大や小樽商大に入ることを期待される
日本の中の外国といわれる北海道の閉鎖的な気質なんだと思う
俺は小樽商大を受けることにした
判定を見るとA判定
合格確率80%だった
正直もう受かった気でいた
合格発表は1番のりで行った
俺が発表の掲示板を見てる姿はテレビ中継もされていたようだ
ラグビー部やアメフトの人にも囲まれた
胴上げの準備も万端だった
しかし、現実はそう甘くなくあっさり落ちていた
俺を囲んでいた人たちは、さーっと離れていった
ものすごい惨めな自分がいた
下手にA判定なんぞ取ったために気が緩んだ
1浪する予定だったくせに期待してしまったために落ち込んだ
人生最初の大きな挫折だった
小樽商大から小樽駅までは結構な距離があってずっと坂道になっている
掲示板を見て落ちたこと確認し、一人でとぼとぼ駅まで歩いて帰った
俺の後ろを母親と女の子の親子が歩いていた
携帯で誰か父親であろうか、合格したことをうれしそうに連絡していた
それが悔しくて悔しくてたまらなかった
遠くからその様子を眺めているもう一人の自分がいた
前を歩いている俺と後ろの親子の明暗をしっかり目に焼き付けていた
小樽駅についたとき
公衆電話で家で連絡をまっている母親に電話をした
落ちたことを知らせるわけで気が重かった
何を言われるかわからなかった
俺は一言「だめだったよ」と言った
母親は優しい声で「そっか、気をつけて帰っておいでね」ただそれだけだった
今まで我慢していた悔しさ、情けなさ、すべての感情の糸が切れたようだった
涙が溢れてきた。そして、来年は本気でやろうと思った
浪人中、勉強に疲れたりつらくなったとき
必ず思い出すのはあの親子のうれしそうな声や笑い声だった
顔もわからないが俺のライバルは、あの楽しそうな笑い声だった
翌年、落ちた大学よりも1ランク上の学校にほぼトップで合格することができた
ただ落ちただけなら翌年も同じことの繰り返しだったと思う
だけど、落ちたあとの状況が勉強嫌いの俺を奮い立たせるきっかけになっていた
名前も顔もわからないけど、あの親子には感謝している